
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の石川代表として、加賀千景は全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は伝統美を現代へ翻訳する演出家。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、前田利家の戦術思想を女性人格として再構築した〈前田利家AI〉。豪華さと堂々たる先陣で視線を集め、味方の士気を引き上げる。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
加賀千景の衣装には、職人が一枚ずつ置いた金箔が夜空のように光っていた。前田利家AIは「百万石の華を示せ」と、さらに装飾を増やして審査員を圧倒する案を出す。けれど試着した千景は、鏡の中で表情より衣装ばかりを見ていた。彼女は胸元の大きな飾りを一つ外し、その金箔を舞台背景の細い月へ移してもらう。本番、歌う本人と支える職人技の両方に光が当たった。豪華さを否定せず、どこへ置くかを選び直す。終演後、千景は衣装だけでなく、作り手の名前も配信画面に残してほしいと頼んだ。ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。
順位表示を待つ控室で、加賀千景は前田利家AIとその日の選択を一つずつ振り返った。利家AIの華を、千景が作り手の名まで照らす美へ整える。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。石川の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
石川篇・了