
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の山形代表として、最上つむぎは全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は利害をほどく実務派プロデューサー。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、最上義光の戦術思想を女性人格として再構築した〈最上義光AI〉。規定と利害を素早く読み、交渉で相手より先に有利な盤面を作る。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
山形予選の前日、二組のリハーサル時間が雪の影響で重なった。最上つむぎに宿る最上義光AIは、「相手の遅刻を規定違反として申告すれば、有利に進められる」と冷静に告げる。確かに勝つには正しい。しかし相手の衣装も機材も、まだ峠の向こうにあった。つむぎは自分の照明確認を十五分削り、ステージを半分ずつ使う提案書を送る。甘い判断だとAIは黙り込んだが、合同リハでは互いの曲にない動きが見つかった。本番、彼女の紅花色の袖は予定より少ない光でも鮮やかに舞う。譲った十五分は、弱さではなく未来への投資になった。
ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。順位表示を待つ控室で、最上つむぎは最上義光AIとその日の選択を一つずつ振り返った。義光AIの合理性を、つむぎが競争相手も生かす実務へ翻訳する。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。山形の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
山形篇・了